2016年10月29日土曜日

生まれていなかったから

一年に一度、ふるさとのお墓詣りにやってくる方がおられます。
東京から新幹線に乗り、バスで来られます。
この日は、栃尾坂でバスを下りて、墓地に向かったそうです。
裏覚えに、親戚から知り合いのお墓を回ってきました。と白髪と浮かべる顔の皺に
栃尾への想いが刻まれているようでした。
とても穏やかな老人です。
本家は私の生まれた家のお隣です。
その私の実家に立ち寄って、庭が半分になっていたことに、とても驚かれていました。
7・13の水害により
大きな紅葉の木は、根こそぎ土砂崩れとともに埋まってしまったことを話すと
「あの紅葉の木に登ってあそんだのです」と80年以上前のこどもの頃を
懐かしむこの老人と私に共通の想い出があるなんて、なんて素晴らしいことでしょう。
幼い頃から登りたくて登りたくて、何回も挑戦したことを思い出します。
登れず途中で落ち、膝は赤チンだらけでした。
小学生になって初めて登れた時は、嬉しさよりも高くて、怖くて、震えました。
老人はこどもの頃に大きな紅葉だったと記憶に残っているのですから
樹齢は100年をとうに越していたはずです。
あなたのおじいさんのこと、おばあさんのこと思い出しています。とおっしゃる。
「私の祖父はどんな人でしたか?私が聞いているところでは、芸者遊びばかりしていて、ちっともいい人ではなかったようですが」というと
その老人は「大きくて優しい人でした」と言いました。
町会議員をして、芸者遊びばかりして、財産をなくした悪い人だったはずの祖父が
他人のこどもから見たら優しい人だったと言われると
私は会ったこともないのに、なんだか嬉しくなるのでした。
来れるうちはまた来ますと深々と頭を下げられるのです。
私の知らないふるさとを聞かせてください。
来年は叔母のレツ子さんを連れてきますから、ご連絡ください。と
リュックを背負って、菊の入った袋を持つ老人を豆撰から見送りました。


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