2016年6月9日木曜日

お月様にはウサギが住んでいたのです。

流しの隣に、大きな桶のお風呂が置いてありました。
風呂釜に、ぼいをくべ(小枝を入れること)、杉っ葉に火をつけ、薪を燃やして、お風呂を沸かす、昭和30年代。

ある日、きちんと脱衣所のあるお風呂場を造ることになりました。
その工事の間、桶のお風呂は庭の真ん中に移されました。
臨時のお風呂は足元も見えない暗闇です。
灯りといえば、お月様とお星様だけです。父に抱かれて湯に浸かり空を見上げると、そこは、おとぎの世界でした。
温まった体にそよそよと風が吹きます。
なんて気持ちのいいことでしょうか。
そして、父は必ずこの話を毎回するのです。
「あのお月様にはウサギが住んでいて、餅をついているんだぞ」
私は、じっーと、瞬きもせず月を眺めるのです。
透明に輝くお月様の真ん中に臼があって、
うさぎが杵を振り上げ、ぺったんこ、ぺったんこと餅をついている音まで聞こえるのです。
庭に置かれた、桶のお風呂は私にとって最高の物語世界でした。
だから、新しいタイルのお風呂が出来上がると、がっかりして
しまいました。

この幼い頃の想い出が忘れられなくて、自宅のお風呂の窓は大きくしました。
もちろん、夫の反対を押しきって透明のガラス戸にしました。

ところが、家の周りには、街灯の灯りや家が建ち、
大きな透明ガラスは、今ではすだれで覆われてしまいました。
懐かしく、遠い遠い昔の話。
豆撰のスタッフのほとんどが、人間が月面到着してから生まれたそうです・・・・・・。


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