刹那の夢がたりコンサート
開演ブザーで幕が上がる。スポットライトの中。
そこには76歳の青年が、2000人の観客全てに歌を届ける。その歌はマイウェイではじまった。今回のコンサートテーマは「刹那の夢‥‥‥その時を想い出してください」と語り歌が続く。
私は16歳だった。はじめて恋をした。刹那の恋だった。半世紀も前の恋なのに、いまだ冷めぬ恋心を思い出した。はじめての恋はあっけなく終わってしまったのに想いは続いていると思った。
昨日観た映画「人間失格」と歌い手の人生に接点などないのに交差する。交差する一点に刹那の夢が見えた。
コンサートの余韻に浸り夜9時に帰宅するとリビングから灯りが漏れている。リビングからバスルームへの戸が開いていて、中戸は半開きである。
夫は私の帰宅に気がつくようにしていた。ひとりでの夕飯は味気なかっただろう。
布施明コンサートは今回で4回目である。45年前新潟公会堂でのコンサートがはじめてだった。まだ付き合ってもいないのに、先輩が行くはずのチケットが私に回ってきた。その時、知り合いの人を誘ってみた。
その人は車を持っていたから丁度よかった。チケットを無駄にせずちょっと気になっていた知り合いの人は今私を待つ夫である。
歌の上手い歌手は多いけれど、76歳で歌い上げる完成度の高さに驚くばかり。一呼吸もしないで愛と恋を歌い上げる。メロディと詩が切なく心に沁みる。その感動をどう伝えたらいいのだろうか。
この歌い手は疲れを知らないのか訓練か。人間失格に登場する3人の女性の映像と歌が重なる。
太宰治の妻役は宮沢りえ。凛とした和服姿がとても似合う。太宰治の才能を死ぬまで信じて認める真の強さと愛情の深さなのだろうか。
愛人役の沢尻エリカはまさに地を行っているようだ。わがままで妖艶で、子どもを欲しがる。その子は太田治子。一度は読んでみようか。
三人目の愛人を演じる二階堂ふみの迫力は凄みだった。天才かもしれないがあんな男なのに、自分のものにしようとする女の意地だろうか。
太宰治は最後には自らは命をたちたくなかったと思った。どうせその時は来るのだから、その時まで子供達のために生きたかったのではないだろうか。
刹那の夢がたりコンサートも終盤。2時間近くをひとりで歌い続けるこの歌手の底知れぬ歌のドラマに感無量。オーチャードホールも素晴らしく、妹に連れてきてもらってよかった。感謝する。
数々の人生の想い出を歌に映しているのだろう。数人の女性の顔が浮かぶ。ひとり息子は今どうしているのだろうか。今、歌い手を支えている若い妻はどんな人だろうか。
日日是好日
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