秋晴れのよき日
その日は
秋晴れの爽やか日だった。
前日はあれこれ考えて
眠れず一夜を過ごした。
お日柄もよろしく
同世代人口の多い時代
美容室は混雑していた。
5、6人の花嫁つくりに
美容師の先生は天手古舞だった。
私も朝4時に美容室に行き
着付け
私の時代は文金高島田が当たり前の
花嫁衣裳を纏ったが
これが最悪だった。
一体何キロあるんだろか
頭に載せられかつらは!
肩は張るやら痛いやら
それでも一生に一度だから
我慢した。打ち掛けも重く
この苦行は静々と歩かざる得ない。
自宅に戻り自室でひとり
その時を待つ。
テレビでも映画でも
決まっている娘から両親への挨拶
「長い間お世話になりました」
いつこの一生に一度のセリフを
言おうかとそのタイミングを
はかっていたのに
とうとう言えずに
我が家を出発する時がきた。
玄関を出る寸前に
父と母が立っていた。
目には今にも溢れそうな涙が
溜まっていた。
ああついにこの時が来た
父はこう言うはず
「この家には二度と戻ってきてはならぬ」
と言うはずだ。
まともに父と母と妹の顔が見られず
私の一生に一度の結婚式は
まるでお葬式だった。
ところが
父の言葉はテレビや映画とは
全く違ったセリフだった。
「いつでもいやになったら戻ってこい。
ここはお前のうちだ」
あの日の父と母はもういない。
父と母がこの世からいなくなるなんて
思いもしなかった43年前の今日。
その頃は保育園に勤務。バイク通勤で
毎朝、実家に寄って父と母の顔を見て仕事
に出かけました。
それから豆撰で働くようになり
毎日実家に帰る羽目になった。
日日是好日
0 件のコメント:
コメントを投稿