2016年11月1日火曜日

母ちゃんの指輪

認知症の実母の左手に、深緑の翡翠を見つけました。
その指輪はどうしたの?と問うと
母ちゃんは、ちょっと困ったように笑います。
どこから出したの?
うちにあった

この翡翠の指輪は、父と私が選んだ指輪です。
突然父が
母ちゃんは指輪を持っていないから買ってやりたいと
街の時計屋さんに、3人で行ったのです。
深緑は子供の私には真珠やダイヤと違って
なんとなく品があって、魔法にかけられた色に見えました。
母ちゃんは45歳くらい、私は中学生の頃でした。

妹にあの指輪はどうしたのと聞きました。
すると、母ちゃんの宝物箱を今日見せたら
喜んではめて、取らなかったと言います。

母ちゃんの薬指にはあの時の翡翠の指輪の物語の扉が開いたのです。
父の買ってくれたもの
思い出せなくても、きっと頭の中で、綿飴のように甘くてふわふわな
感情が湧いてきたのかもしれません。


父の買ってくれたこの指は罪滅ぼしだったことが今の私にはわかります。




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