上田の森はくぬぎの木で囲まれていた。真正面にこじんまりとした館が無言で立っている。
静かなはずの森に響き渡る蝉の音は若人の生きたいと祈っている叫に聞こえる。
館に向かう坂道を孫は無邪気に楽しむ。まだ青い小さなどんぐりを手のひらにいっぱ集めて、こぼれそうになると私のバックに押し込む。
館の扉は西洋の小さな教会のようだ。厚くて重く腱鞘炎の右手に左手を添えて開ける。薄暗い十字架の画廊に集められた戦没画学生の絵が剥き出しのコンクリートの建物にかけられている。まるで島に閉じ込められたように自由が奪われるような空間だ。それとも燃料がなくなった機内に閉じ込められたような。
原田新 「婦人像」着付けがしっかりしている。帯留がややしたに留められている。うつむいた瞳、膝前に組んだ手。足袋に下駄。このポーズをとる婦人を描く原田青年も生きることを祈って筆を握っていたはずだ。
太田章 和子の像
白地の絞り浴衣に三つ編みは当時の女学生スタイル。戦争の時代に描いた夢はあったのだろうか。
恋をしましたかと尋ねてみたが無言だった。
前田美千雄
妻への絵葉書フイリピン島スッケッチと重なる亡き父の「栃尾を一周してくれ」と覚悟の再々入院の日を思い出す。
佐久間修 静子像 この絵をみた瞬間に目が動いた。待って!行かないでとでも言ったように。
この館の名前は無言館。
日日是好日
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