2016年6月5日日曜日

「酔いどれ天使」を観て

1948年制作映画「酔いどれ天使」を夕べ観ました。
私が生まれる7年前の映画です。
戦後の闇市、ヤクザなどを背景に、当時の社会を映し出しています。
この映画がはじまると三船敏郎さんが主役と思っていたのですが、
出演の字幕一番に志村喬さんの名前がでてきて、少し驚きました。
観終わると、どちらが主役なんて関係のないことがわかりました。
ふたりとも体当たりの素晴らしい演技だったからです。

志村さんは庶民派の貧乏医師真田役です。
自分のお酒がなくなると、医薬品のアルコールを
お湯で薄めて飲むシーンやどぶ水の溜まりに写る瓦礫や建物に、
この時代の世相を感じます。
闇市で商売をしている、ヤクザ松永役は三船敏郎さんです。
若い時の三船さんはとてもハンサムで
時代劇とは全く違った雰囲気です。
それは、さておき、
気迫の演技に背筋がゾクゾクしました。
それと同時に、この時代の医療器具、医療施設を見ていると
私の生まれた昭和29年から東京オリンピックまでも
こんな感じだったと切なくなりました。
結核に冒された松永は、真田医師に更生と病気の完治を委ねながらも、
一度辿った世界からは、なかなか抜け出せないのです。
そして、返り討ちに合い、ついに命を落としてしまいます。
黒澤監督のシナリオには、松永が更生し、
病気を治す筋書きはなかったようです。
それは、人間の弱さを、ありのままに表現したかった
黒沢監督の信念だったのでしょうか。
ラストに若き日の久我美子の初々しいセーラー服姿が、
重い映画に一筋の明かりをもたらしてくれました。
結核に負けず、一生懸命病気と闘う少女に医師真田は、「人間は
理性を持って生きなければならない」と諭すラストシーンは心に響きました。


この映画で残念だったのは、音声の悪さです。
なかなかセリフが聞き取れないのです。もちろん画面は白黒です。
この2点が現代映画と大きく違う点です。
それなのに、
この2点は、懐かしく、心に血が通うのです。
それは、CDで聞く音とレコードで聞く音の違いのように、
機械揚げと手揚げのあぶらげの違いのように心に響くのです。

この映画を観ている時間、私はその時代を彷徨い、想像を巡らすのです。
セピア色の写真をながめるように・・・・・・。

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